懸垂式映像装置の振動について
このレポートは、松下通信工業(株)の委託の下に行なった研究の成果をまとめたものである。まだ私自身納得の行く出来ではなく、今後も内容の拡充に努めたいと考えている。
解析の対象としている映像装置の写真を示す。
2点吊表示装置の例(大阪シティドーム) |
4点吊表示装置の例(広島体育館) |
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- 概要及び検討条件
- 概要
本検討書は、懸垂式表示装置について、吊り下げ時の安全性を検討するためのものである。
具体的な設計目標については、次の検討条件に示す。
本検討書の作成にあたり、模型を用いた実験を行った。ここでは、実験の結果を踏まえ、実際の装置の挙動について考察を行う。
- 検討条件
- ワイヤー張力が、レベル2地震時に於いて許容応力度を超えないこと。
- 天井からの吊り長さ10m、14m、40mの3通りについて検討を行う。
- 実験の概要
実験は、1/50の大きさの映像装置の模型を加振装置に吊るし、様々な条件下で上下振動を加えることにより行った。
加振装置は、カム方式駆動により、振幅2cm、周期任意(ただし最大加速度2G)の上下振動を与えることができる。この場合、最大加速度は、与える変位を正弦波とし、時刻
t にて2階常微分した際の係数として与えられる。
α=1/900a(nπ)2
α:加速度(gal), a:片側振幅(cm),
n:振動数(cpm),
この条件の下に、振動数を、50〜60cpm、100cpm、150cpm、200cpm、250cpm、300cpm、350cpm、400cpmと変化させて加振を行った。上式より、300cpmがほぼ1G、400cpmが2Gに相当する。
次節では、この実験の結果現れた各種の挙動について考察し、述べる。
- 実験結果からの考察
実験の結果から、以下の様な4種の挙動が観察された。これらの挙動は実機でも予想されることから、それぞれについて考察する。
- 同行運動
加速度1G以下の振動条件の下では、装置と支点との相対変位がほとんど見られない上下同期運動が見られた。これは、1G以下の上下動においては、常にワイヤーに正の張力が加わり、その中で振動をしているためと思われる。
なお、ワイヤーもバネと同じようにフック則に従い伸縮すると考えられるため、相対変位が0というのはおかしいようにも考えられる。この点について検証するため、バネ定数の異なるであろう3種類の懸垂部材(針金、テグス、スチールワイヤー)を用いたのだが、有意な差は見い出せなかった。また、加振中にワイヤーが横揺れを起こしているのが観測された。これらのことから、ワイヤーは軸方向に比して横方向の拘束条件が極めて緩いため、多少の伸縮は横揺れという形で吸収してしまっていることが考えられる。
以上より、加速度1Gを超えない上下動は、吊り具の安全性にかかわるような挙動を起こさないものと判断する。ただし、例外として、次項に示すツイスト運動がある。
- ツイスト運動
ブランコに乗った時、我々は振動の端部でひざを伸縮させることにより重心を上下に移動し、いわゆる‘ブランコを漕ぐ’動作をする。
重心の上下動という点は、支点の移動と相対的に等しく論じることができるため、今回の問題でも‘ブランコ漕ぎ’と同じ運動が生ずる。
具体的には、振り子の固有周期のちょうど半分の周期を持つ外部振動(これが先の‘振動の端部で漕ぐ’ということに相当する)が与えられた時、重心を軸にツイスト運動を起こすことが観測された。ブランコのような振子運動にならない理由としては、重心の位置が保存されるツイスト運動の方が、ブランコ運動よりも有利であるためと考えられる。おそらく、ブランコは設計時にツイストしないような配慮がある上、人間が漕ぐ際に無意識のうちに上下動以外の制御をしているのだろう。
さて、この運動は外部振動の大きさによらず、振動が持続する限り増幅を続ける。ただし、2点吊の場合、ワイヤーのねじれからこの運動を打ち消す方向の分力が生ずるので、90度以下の振幅で頭打ちとなることが実験より観測された。いずれにせよ、大きな振動である。また、この振動に対しては有効な対策手段はない。
振り子の固有周期は、次式で示される。
T=2π√(L/g)
実際の吊り長さを上式にあてはめると、それぞれ6.3秒、7.5秒、12.7秒である。従って、ツイスト運動を生ぜしめるのに必要な外部振動の周期は、最短でも3.1秒である。これは、天井の周期の0.8秒よりもはるかに長い周期であり、かつこれ以下の周期の振動はむしろツイスト運動を打ち消す働きがある。
逆に、天井の周期0.8秒に応答する吊り長さは63cmである。これほど短い吊りでは、支点間距離の方がはるかに長いことから、問題とはなりえない。
以上から、この運動が実際に起こる可能性は、ほとんどないと判断される。
参考までに、この運動の簡単なシミュレーションを示す(工事中)。小さな初期条件が、しだいに増幅されていく様子がわかる。先に述べた通り、実際には2点で吊られていることによる抗力があるために、いつまでも増幅しつづけるわけではないが、この項は省いて計算している。
- ジャンプ運動
上下動の大きさが1Gを超えた時に限り、張力が負になって装置(の模型)が僅かに真上に飛び上がる現象が観測された。しかし、この現象が起こるのは1Gを越える振動が与えられてから最初の1度〜2度限りで、そのあとは次項で述べるチルト運動へと移行した。
鉛直振動がそのままワイヤーにかかったとした場合のシミュレーション挙動を示す(工事中)。これによれば、実際に観測されたものとは全く異なる挙動となっており、しだいに大きくなるジャンプを繰り返している。現実には大きなジャンプは起こらず、1cm足らずのものが2回観測されたのみである。
これは、
- 実験で用いた加振機の運動も、純粋な上下動とは考えにくいこと
- 重心が正確にワイヤーと同一の平面に存在するわけではないこと
- 2点吊りであるために前後方向に揺れやすい‘えこひいき’が存在すること
などが原因と考えられる。装置とワイヤーとはほぼ完全なピン接合の関係にあり、また装置への慣性力は重心位置にかかるものとすることができるので、装置の重心と接合点を結ぶ線をはずれる慣性力は(現実にこのようになることがほとんどである)モーメント荷重として装置を回転させてしまうのである。
また、3.については、1点吊りでの加振実験を行ったところ、2点吊のような安定した横揺れは生じずにランダムなジャンプ現象が起こったことから推測されるものである。ただし、この場合もジャンプの大きさはせいぜい2〜3cmであった。
実際にどの程度の上下動がジャンプとして生ずるのかを判断するのは非常にむずかしい。ジャンプというのが基本的にかなり不安定な現象であるため、最初のジャンプが横揺れの成分が生ずることが考えられるからである。
実際には、上下動のみの地震はまず考えられないことから、問題となるほど大きなジャンプ運動は起こらないものと判断される。
- チルト運動
1Gを超えた上下動の際、もっとも顕著に観測されたのはこの挙動である。例えば、振幅は高々2cmであるから、もっとも吊り位置を高くした状態(吊り長さ38.5cm)の場合でも角振幅18.5°のワイヤーの振子運動で吸収できることになる。
実験の際には、装置の重心が床からの絶対位置をほぼ保持しながら、2ヶ所の吊り位置を結ぶ線に平行で重心を貫く線を軸に前後に揺れ、吊りワイヤーが上記の程度の振子運動をしている様子が観測できた。この振子運動は、上下動を強制力とするものであるため、その周期は入力周期の1/2に等しく変化した。
実際には、実験時ほど高い周波数とならないこと、水平方向の揺れも存在することから、実験と全く同じ挙動とはならないとしても(装置の重心位置が保存されるとは考えにくい)、上下動による回転モーメントを強制力とする強制角振動という点では同様の挙動をとるものと考えられる。
なお、実際に1Gを越える上下動は、天井側のシミュレーション結果から2〜3回程度であると予測される。また、実験時には、入力上下動が1Gを下回った後も慣性で持続し、むしろ加振を止めた直後に大きな揺れが観測された。
- 数値解析及び考察
- 数値解析
以上の考察を踏まえ、実際の装置の挙動につき、数値解析を行った。
装置は地震時の水平力及び鉛直力により、チルト運動を行いながら左右に揺れるものとした。また、前に述べた理由からジャンプ運動については無視してある。
- 考察
(工事中)
(May. 1997)
e-mail:shig@esprix.net
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